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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)6317号 判決

甲事件原告・乙事件被告 小島博

右訴訟代理人弁護士 杉原正芳

甲事件被告・乙事件原告 学校法人・和田学園

右代表者理事 和田嘉明

右訴訟代理人弁護士 柴田政雄

同 浅田千秋

同 鹿児島康雄

主文

一  甲事件被告は、甲事件原告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地について横浜地方法務局旭出張所昭和五八年一二月一日受付第三一五八二号根抵当権設定仮登記の、同目録(二)記載の土地について同出張所同日受付第三一五八三号根抵当権設定仮登記の、同目録(三)記載の土地について同出張所同日受付第三一五八四号根抵当権設定仮登記の、同目録(四)記載の建物について同出張所同日受付第三一五八五号根抵当権設定仮登記の各本登記手続をせよ。

二  乙事件原告の乙事件の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じ、甲事件被告・乙事件原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(甲事件について)

一  請求の趣旨

1 主文第一項同旨

2 訴訟費用は、甲事件被告(乙事件原告。以下単に「被告」という。)の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 甲事件原告(乙事件被告。以下単に「原告」という。)の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

(乙事件について)

一  請求の趣旨

1 原告は、被告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地について横浜地方法務局旭出張所昭和五八年一二月一日受付第三一五八二号根抵当権設定仮登記の、同目録(二)記載の土地について同出張所同日受付第三一五八三号根抵当権設定仮登記の、同目録(三)記載の土地について同出張所同日受付第三一五八四号根抵当権設定仮登記の、同目録(四)記載の建物について同出張所同日受付第三一五八五号根抵当権設定仮登記の、同目録(一)ないし(四)記載の土地及び建物について同出張所同日受付第三一五八六号停止条件付賃借権設定仮登記の各抹消登記手続をせよ。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文第二項同旨

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

第二当事者の主張

(甲事件について)

一  請求原因

1 被告は、幼稚園を経営する公益法人であり、その園舎及び敷地である別紙物件目録(一)ないし(四)記載の土地及び建物(以下「本件不動産」という。)を所有している。

2 原告は、昭和五八年一一月三〇日被告との間で、本件不動産につき、極度額一億五〇〇〇万円、債権の範囲金銭消費貸借取引、手形債権、小切手債権、債務者被告、権利者原告とする根抵当権設定契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

3 原告は、同年一二月一日本件不動産について、本件契約を原因とする、甲事件の請求の趣旨1記載の根抵当権設定仮登記を経由している。

4 よって、原告は、被告に対し、本件不動産につき、右3の各仮登記の本登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び3の事実は認め、同2の事実は否認する。

三  被告の主張

1 仮に、本件契約が原告と被告の代表者理事長であった訴外和田嘉夫(以下「訴外和田」という。)との間で締結されたとしても、次に述べるとおり、訴外和田は同契約の締結につき被告を代表する権限を有していなかったから、同契約は被告に対しては効力がない。

(一) 訴外和田は当時被告の代表者理事長であったが、その代表権は、客観的に当然に、被告の設置、経営する幼稚園の園舎及びその敷地である本件不動産につき根抵当権を設定する旨の本件契約を結んだり、その年度の収入で返済できないような多額の金銭を借り入れる契約を結んだりすることに及んではいない。このように、客観的にも、もともと代表権がない場合には、代表権の制限に関する私立学校法四九条、民法五四条の適用はない。

原告が、訴外和田に本件契約の締結につき被告の代表権を有すると信じたというのであれば、民法一一〇条の類推適用が問題となるだけであるが、原告は、右契約時、訴外和田に代表権がないことを知っていたか、または、代表権があると信じていたとしても、そう信じるにつき過失があり、したがって、同条の類推適用もない。

(二) 仮に、客観的には、本件契約の締結につき訴外和田に被告の代表権があるとしても、次に述べるとおり、その代表権には制限が加えられており、被告はその制限をもって原告に対抗することができる(私立学校法四九条、民法五四条)。

私立学校法四二条一項は、「借入金(当該会計年度内の収入をもって償還する一時の借入金を除く。)及び重要財産の処分」に関しては、理事長はあらかじめ評議員会の意見を聞かなければならない旨規定し、被告の寄附行為二〇条は、「借入金(当該会計年度内の収入をもって償還する一時の借入金を除く。)及び基本財産の処分」については、理事長はあらかじめ評議員会の同意を得なければならない旨、また、同二七条は、「基本財産の処分」は原則として禁止するとした上、事業の遂行上やむを得ない事由があるときは、理事会において理事総数の三分の二以上の同意議決を得て、その一部に限り処分することができる旨規定している。本件契約は、被告の重要財産ないし基本財産の処分であり、それに伴う借入れは、その年度の収入で返済できない多額の金銭にかかるものであり、しかも、本件契約及び右借入れは、被告の事業遂行上の必要に基づくものではなく、訴外和田個人の利益を図るためにされたものである。そして、本件契約及び右借入れについて、評議員会の意見を聞いたこともなければ、評議員会又は理事会の同意もない。

原告は、右の各規定及び右の諸事情を知っていたものである。

仮に、原告が右の各規定及び右の諸事情を知らなかったとしても、原告は知らなかったことにつき重大な過失がある。すなわち、本件契約の極度額及びそれに伴う原告からの貸付金の額がいずれも相当に高額であるなどといった事情があるのに、原告は、格別慎重な調査もせず、ただ自分のもうけだけに走ったものである。原告は、公益法人である被告が本件契約等をするのは異常であるということを分ったはずであり、そうであれば、評議員会、理事会の同意の有無の確認を調査すべきであり、かつそのことは容易であったが、それをしていない。

2 仮に、右1が認められないとしても、原告と被告との間には、本件契約の被担保債権である「金銭消費貸借取引、手形債権、小切手債権」は何ら存在せず、原告は、本登記を求める権利を有しない。

原告は、被告に対し、昭和五八年一一月二五日六〇〇〇万円、同月三〇日三四〇〇万円をそれぞれ貸し付けた旨主張しているが、そのような事実はない。

3 仮に、以上が認められないとしても、訴外和田が被告の代表者理事長としてした本件契約の締結は、次に述べるとおり、利益相反行為であり、私立学校法四九条、民法五七条により、訴外和田は同契約の締結につき被告の代表権を有しないから、同契約は被告に対しては効力がない。

(一) 本件契約において、真の主債務者は訴外和田個人であり、被告は連帯保証人に過ぎない。本件契約に伴う金銭の借入れにおいても、借主(主債務者)は訴外和田個人であり、被告はその連帯保証人であった。そうすると、訴外和田は自己の債務につき被告を代表して連帯保証するものであって、利益相反行為である。

(二) 仮に、形式上の借主が被告であるとしても、現実の借入金はすべて訴外和田個人が使うために借り入れられており、そのことを原告は知っていたから、実質上は、借主は訴外和田個人で、被告は連帯保証人であり、やはり、利益相反行為である。

四  被告の主張に対する原告の答弁

1 右三の1の(一)の事実中、訴外和田が当時被告の代表者理事長であったことは認めるが、その余は否認する。私立学校法三七条一項にあるように、理事は学校法人の業務について学校法人を代表するものである。

右三の1の(二)の事実中、被告の寄付行為二〇条、二七条の規定内容は不知、その余は否認する。被告の寄付行為によって、被告の理事の代表権に制限が加えられていたとしても、原告は、本件契約及びそれに伴う金銭の貸付け当時、被告の理事長であった訴外和田の代表権に被告主張のような制限が加えられていることを知らなかったし、それにつき過失もなかったから、被告は、右代表権の制限をもって原告に対抗することができない。

2 右三の2は争う。原告は、被告及び訴外和田を連帯債務者として、昭和五八年一一月二五日六〇〇〇万円、同月三〇日三四〇〇万円を貸し付けている。

3 右三の3の(一)、(二)の事実は否認する。本件契約においても、また、それに伴う金銭の貸付けにおいても、被告は、訴外和田とともに連帯債務者であって、連帯保証人ではない。

(乙事件について)

一  請求原因

1 甲事件の請求原因1に同じ。

2 原告は、昭和五八年一二月一日本件不動産について、乙事件の請求の趣旨1記載の根抵当権設定仮登記及び停止条件付賃借権設定仮登記を経由している。

3 よって、被告は、原告に対し、本件不動産につき、右2の各仮登記の抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認める。

三  抗弁

1 甲事件の請求原因2に同じ。

2 更に、原告は、昭和五八年一一月三〇日被告との間で、本件不動産につき、被告が右根抵当権の確定後の被担保債権を履行しないとき、被告は原告に対し次の内容の賃借権を設定する旨の停止条件付賃借権設定契約(以下「本件賃借権設定契約」という。)を締結した。

(一) 賃料 別紙物件目録(一)ないし(三)の土地につき一平方メートル当たり二円、同目録(四)の建物につき一平方メートル当たり二円

(二) 賃料支払期 毎月末日

(三) 存続期間 効力発生の日から満三年

(四) 特約 譲渡、転貸ができる。

3 請求原因2の各仮登記は、右1及び2の契約を原因とするものである。

四  抗弁に対する認否

抗弁1及び2の事実は否認し、同3の事実は認める。

五  被告の主張

甲事件の三(被告の主張)に同じ。なお、本件賃借権設定契約については、本件契約について述べたところが同様に当てはまるので、これをすべて援用する。

六  被告の主張に対する原告の答弁

甲事件の四(被告の主張に対する原告の答弁)に同じ。なお、本件賃借権設定契約については、本件契約について述べたところをすべて援用する。

第三証拠関係《省略》

理由

(甲事件について)

一  請求原因1及び3の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》によると、昭和五八年一一月二五日原告と被告のためにすることを示した被告の代表者理事長である訴外和田との間で、本件不動産につき、請求原因2記載の内容の根抵当権設定契約(本件契約)及び原告から訴外和田及び被告を連帯債務者として六〇〇〇万円を貸与する旨の契約が締結され、すぐそこで、原告から訴外和田に対し六〇〇〇万円から利息等を天引きした額の金銭が交付されたことが認められ、この認定に牴触する《証拠省略》は採用し難く、《証拠省略》の作成日付が昭和五八年一一月三〇日となっている点は《証拠省略》に照すと、また、《証拠省略》の被告の肩書部分に「連帯債務者」と記載されているほか「連帯保証人」と併せ記載されている点は《証拠省略》に照すと、いずれも右認定の妨げとはならず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

三  そこで、被告の主張につき、順次判断する。

1  まず、被告は、訴外和田の代表権は客観的にも本件契約を締結することに及ばない旨主張する(被告の主張1の(一))ので検討する。

被告が幼稚園を経営する公益法人であり、その園舎及び敷地である本件不動産を所有していることは、既に一において述べたとおり、当事者間に争いがなく、被告の寄付行為の第三条によると、被告の目的は、「教育基本法及び学校教育法に基づき、学校教育を行うこと」にあるものと認められるが、右事実から、被告が本件不動産につき極度額の相当に高額な根抵当権を設定し、それに伴いその年度の収入では返済できないと認められる金銭を借り入れるといった契約を結ぶこととしても、そのことは被告の目的の範囲内のものというべきであって、それを超えるものとはいい難く、他に右契約を結ぶことが被告の目的の範囲外のものであることを首肯させるに足る証拠はない。そして、訴外和田が本件契約締結当時被告の代表者理事長であったことは当事者間に争いがないところであるから、被告の目的の範囲内と認められる本件契約を結び、またそれに伴う金銭消費貸借契約を結ぶことは、外形上から判断する限り、訴外和田の代表権の範囲内に含まれることは当然のことといわなくてはならない。

そうすると、被告の右主張は失当というほかはない。

2  次に、被告は、訴外和田の代表権には制限が加えられていた旨主張する(被告の主張1の(二))。

私立学校法四二条一項には、被告主張のような規定が存するし、また、《証拠省略》によると、被告の寄付行為二〇条、二七条には、被告主張のような規定の存することが認められるが、右各規定はいずれも、理事長の事務執行に関する内部的な制限規定であって、代表権の制限規定そのものではない。したがって、この制限につき、私立学校法四九条によって民法五四条が直ちに準用されるものとはいえない。しかしながら、理事長の行為を制限する点では、代表権の制限規定も、事務執行に関する内部的な制限規定も、同様な機能を有するものであるから、後者についても、前者に関する民法五四条の規定と同様の規制を加えることが相当であると解され、また、同条の規定内容に鑑み、そのように解したからといって相手方に不測の損害を負わせるものとは考えられない。もっとも、代表権の制限規定の場合は、相手方の知、不知はもっぱら右規定の知、不知だけを問題とすれば足りることはその規定の性質に照らし当然であるが、事務執行に関する内部的な制限規定の場合は、相手方の知、不知は、右規定の知、不知だけでは足らず、加えて右規定の不遵守の事実についての知、不知をも問題とする必要があるものということができる。したがって、後者の場合には、民法五四条を類推して準用するものと解するのが相当である。

ところで、《証拠省略》を合せ考えると、原告は、被告主張の各規定を全く知らなかったものと認められ、この認定に反する証拠はない。また、原告が被告主張の各規定を知らなかったことに過失があったとの事実を認むべき証拠はない。なお、被告は、原告が本件契約締結に当たり格別慎重な調査もしなかった旨主張しているが、《証拠省略》を合せ考えると、原告は、本件契約に先立ち、本件不動産の担保価値を調査し、また、契約当日、訴外和田の代表資格を公文書をもって確認しているものと認められるから、原告の調査が必ずしも杜撰であるとは断じ得ず、といって、公益法人である被告と本件契約のような契約を締結する者は、常に寄付行為を調査することを要し、それを欠けば、寄付行為の規定を知らないことにつき当然に過失があると解するのも相当ではない。

そうすると、原告は、被告主張の各規定につき善意であり、その点につき過失があったものとまでは認められないのであるから、右各規定による制限をもって、原告に対抗し得ないものというほかはない。

被告は、更に、本件契約等は訴外和田個人の利益を図るためにされたものである旨主張しており、《証拠省略》によると、本件契約に伴う借入金(既に二において認定したとおり、昭和五八年一一月二五日六〇〇〇万円及び後に3において認定するとおり、同月三〇日三四〇〇万円であり、これがまた原告において、本件契約の被担保債権として主張するすべてである。)は被告のために使用されておらず、すべて訴外和田のために使用されているものと認められる。このような場合には、相手方である原告が訴外和田の私利追求の意図を知り又は知り得べかりしときに限り、訴外和田の無権代理と取り扱いうると解されるところ、《証拠省略》によると、原告は、訴外和田から、右の六〇〇〇万円は被告の他に負担する債務を弁済するためであり、右の三四〇〇万円は被告の経営する幼稚園の備品、設備の更新等をするためである旨の説明を受けていることが認められ、この事実によると、訴外和田の説明は一応の合理性を有しないとはいえないから、原告が訴外和田の私利を追求しようとする意図を知り又は知り得べかりしものではなかったと推認することができるところ、この推認を覆えすに足る証拠はない。

そうすると、被告の右主張はいずれも理由がない。

3  また、被告は、本件契約の被担保債権が存在しないから、本訴請求は許されない旨主張する(被告の主張2)。

そこで考えるに、本件契約は根抵当権設定契約であり、元本の確定がされたとの主張がない(その点の立証もない。)以上、現に被担保債権が存在しないからといって、そのことは本件契約の効力を左右するものではなく、被告の右主張は、それ自体失当というほかはない。

のみならず、既に二において認定したように、本件契約締結日の昭和五八年一一月二五日原告は被告のためにすることを示した被告の代表者理事長である訴外和田に対し、訴外和田及び被告を連帯債務者として、六〇〇〇万円を貸し渡しており、また、《証拠省略》によると、同月三〇日原告は被告のためにすることを示した被告の代表者理事長である訴外和田に対し、被告及び訴外和田を連帯債務者として、三四〇〇万円を貸し渡した(交付額は、利息等を天引きしたもの)ことが認められ、この認定を左右するに足る証拠はない(なお、《証拠省略》の被告の肩書部分に連帯債務者と連帯保証人とが併記されている点については、《証拠省略》のその点に関する右二で述べた判断のとおりである)。そして、右1及び2で述べたところ並びに後に4で述べるところを合せ考えると、訴外和田の右各行為の効果は、被告に帰属するものと解するのを相当とするから、本件契約の被担保債権が存在しないとはいえないことは明らかである。

それゆえ、被告の右主張はいずれにしても失当である。

4  最後に、被告は、訴外和田の本件契約の締結は、利益相反行為であり、訴外和田は本件契約締結につき被告の代表権を有しない旨主張する(被告の主張3)。

そこで検討するに、本件契約は、根抵当権設定契約であり、その被担保債権の範囲が、金銭消費貸借取引、手形債権、小切手債権であることは、既に二において認定したとおりであり、その契約は、外形上被告と訴外和田との利益相反行為とは認められない(訴外和田の債務が被担保債権の中に含まれていることが外形上明らかであるといった事情はない。)。そして、仮に、本件契約後に被担保債権を発生させる取引が行われ、それが被告と訴外和田との利益相反行為であるとすれば、それについて私立学校法四九条、民法五七条による規制を受けるものであるから、本件契約を利益相反行為としなかったからといって被告の保護に欠けるものではない。

ところで、被告は、もっぱら、本件契約に伴う金銭消費貸借契約の利益相反行為性を論ずるが、それが肯定されても、本件契約の利益相反行為性を当然に肯定することにはならず、その意味で、右の主張は、それ自体失当である。しかも、既に二及び3で認定したように、右の金銭消費貸借契約においては、被告は訴外和田とともに連帯債務者であり、また、既に2において認定したように、右契約において借入れた金銭はすべて訴外和田のために使われてはいるが、原告はそのことを知ってもおらず、また知り得べかりしものでもなかったのであるから、右契約は、外形的にも、また、実質的にも、利益相反行為とはいえず、したがって、右契約の効力が被告に及ばないものとすることはできない。

それゆえ、被告の右主張も採用することができない。

5  したがって、被告の主張はすべて失当である。

四  以上一ないし三によると、訴外和田は本件契約につき被告を代表する権限を有するから、本件契約の効果は被告に及ぶものということができる。

(乙事件について)

五 請求原因1及び2の事実はいずれも当事者間に争いがない。

六 《証拠省略》を合せ考えると、昭和五八年一一月二五日原告と被告のためにすることを示した被告の代表者理事長である訴外和田との間で、本件不動産につき、抗弁2記載の内容の停止条件付賃借権設定契約(本件賃借権設定契約)が締結されたことが認められ、この認定を左右するに足る証拠はない(《証拠省略》に対する証拠判断は、右二において述べたとおりである。)。

また、抗弁1に対する判断は、右二において述べたとおりである。

しかして、乙事件の請求の趣旨1記載の各仮登記が、右認定の契約を原因とするものであることは当事者間に争いがない。

七 被告の主張に対する判断は、右三において述べたとおりである。なお、本件賃貸借契約については、右判断において、本件契約につき述べたところが同様に当てはまるので、これに準ずる。

そうすると、被告の主張はすべて失当というほかはない。

八 以上五ないし七によると、右四で述べたとおり、本件契約の効果が被告に及ぶほか、訴外和田は本件賃借権設定契約について被告を代表する権限を有するから、本件賃借権設定契約の効果もまた被告に及ぶものということができる。

(まとめ)

九 以上述べたところによると、原告の被告に対する甲事件の請求は、いずれも正当であるから、これを認容するが、被告の原告に対する乙事件の請求は、いずれも失当であるから、これを棄却する。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木康之)

〈以下省略〉

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